【投資について語るときの愛と追憶】老後2000万円の数字の呪い by 黒猫投資家

 老後に年金以外に2000万円の蓄えが必要という報告を金融庁のワーキング・グループがまとめ、世間に衝撃を与えた。その後、2000万という数字が一人歩きしている。

 コロナ禍の給付金詐欺の実行犯の一人の若者が、老後に2000万必要と思って不安になり、詐欺に加担したという趣旨の供述をしたそうだ。この数字がわかりやすい基準として幅広く日本人の不安感をあおり、慌てて証券会社に口座を開いたり、銀行の窓口で勧められるままに投資信託を買ったり、果てには犯罪にまで加担した、という状況が起きている。
 金融庁の報告書が出る以前から、将来年金はもらえるのだろうか、健康保険で医療費は大丈夫だろうか、など、ぼんやりとした不安は庶民の間にはあったはずだ。よほど、十分な蓄えがない限り、医療費や介護の費用など、想定外の出費に不安感を持つのは当然のことである。しかも、平均寿命が80歳を超えるともなれば、生きるにはカネがかかる、いったいいつまでお金がかかるんだ?と思う。
 老後2000万円問題は、潜在的に共有されていた不安感に、わかりやすい数字の指標を与えたに過ぎない。個人の置かれた状況にあわせた解決策は不透明で、結果として、絶望を広めている。

 この絶望のなか、低成長の日本社会に生きる私たちはどこに希望があるのだろうか?金融庁は、貯蓄から投資によって、この老後2000万円を準備させようということを意図していた。これは可能なのか?
 絶対に確実ではないが、私は、自分の401K(確定拠出年金)の運用成績をみていると、案外可能なのかもしれない、と最近感じている。私が401Kに加入したのは、2006年半ばである。当時転職した企業に確定拠出年金の制度があり、そこで初めて、会社が拠出する月額2万円なにがしの資金を自分で運用指図する、という制度に向き合った。

 与えられた金額の運用使途をするのは初めてのことなので、よくわからない。そこで、まず、投資信託3種類に分散した。外国債券、日本株式インデックス、外国株式インデックスに3等分である。その後、リーマンショックもあり、元本割れとなり、運用報告書には、私の運用成績はマイナスで、しかも、加入者の中でも下のほうの成績であった。ほどなくして、外国債券の運用成績が悪いと見限って、日本株と外国株の二等分に変更した。その後、なかなか回復しない日本株に呆れて、日本株を25%、外国株式を75%とした。運用成績をみているうちに、いっそのこと、外国株式を100%にしよう、と決意し、2014年前後には、すべて外国株式にしたのであった。その後、二度ほどの転職を経て、ずっと、401Kは外国株式のインデックスの投資信託一本である。運用会社や拠出額にいくらからの変動はあったが、移管するたびに売却しても、再度、外国株式インデックスを買いなおし、積立を継続してきた。転職のはざまの移管などで半年ほど運用していない時期もあるのだが、その結果、2006年から2022年現在までの約15年間の運用成果は現在、1100万円を超えている。これからも月額2万円程度の拠出金を追加して運用していくとすれば、保守的に4%の想定利回りでも10年後には2000万円くらいになる。
 過去の運用成績が将来に当てはまるわけではない。しかし、毎月の積立額は決して大きな金額ではなく、また、運用当初は、元本割れの時期もしばらく続いたにもかかわらず、老後2000万円が準備できてしまう可能性がみえてきたことに、確定拠出年金の有効性を実感している。

 まだこれから多くの時間をもつ若者よ、恐れることはない。

 最低限の老後の資金のためだけならば、こつこつ投資をすればよい。

 勤務先に確定拠出年金があれば、インデックスに分散投資をする。そして様子を見ながら、自分にとって望ましい分散投資を見つければよい。もし、フリーランスや自営業者であれば、個人で加入できるイデコやNISAを使って自らの確定拠出年金を作ることもできる。
 詐欺に手を染めたり、動きの激しい暗号資産や、人間関係を犠牲にするようなネットワークビジネスに疲弊することはない。ワンルームマンション投資で、空室リスクに悩まされることもない。絶望して思考停止に陥るのではなく、人生の優先順位を定め、仕事や人間関係を大事に、過度な不安で自らの目の前にある大切な将来に続く時間という希望を押しつぶさないでほしい。

 

【投資について語るときの愛と追憶】by 黒猫投資家

執筆:黒猫投資家(猫と人間のほんとうの幸せを探求する女性個人投資家)

猫と人間のほんとうの幸せを探求する女性個人投資家が紡ぐ不動産、株、投資信託物語

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作成日:2022/10/22
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Allears オールイヤーズ事務局で作成した記事です。