【投資について語るときの愛と追憶】「思い出のライザップ」by 黒猫投資家
金融機関やマスコミなど、市場の情報に接しやすい職場に勤務していると、個別株の投資に社内規則があるのが通常で、取引の事前事後に届出や年末に取引報告書を提出したりする。面倒である。よって、こうした職種の人は、ETFや投資信託が主な投資手法となる。日経平均のレバレッジETFは、大変人気で取引量も多い。しかし、その他の日本のETFは、やや取引量が少なく、閑散としている印象である。証券会社などが流動性を提供して、取引が成立するようにしているとは聞くが、寂しい取引高をみると、買う気が失せる。証券市場は、人気投票なのだ。人気がないところに金は集まらない。
そこで、投資信託となると、通常は、インデックス投資が王道であり、低コストのファンドを積み立てて、購入単価を下げるドルコスト平均法を採用すると、あとは、ほったらかしとなる。退屈極まりない。
実際には、インデックス投資でも、20-30パーセント程度増やすことは可能なのだが、いかんせん、個別株に比べると刺激に欠ける。
やはり、投資のだいご味は個別株である。
個別に銘柄を選択して、最低投資単位でも買うと、まるで、自分がその会社のオーナーのような気分になる。街を歩いていても、広告やら製品のロゴが目に入るものなら、「お、よく頑張っているな!」と思う。そして、友人にも、その会社の製品やサービスを自慢したくなる。たとえ100株でもそんな気分になるのだから、不思議だ。
著名な会社に投資するも、知る人ぞ知る株に投資するも、いずれでもよい。我が子の活躍を応援する親のような、あるいは、恋人の出世を叱咤激励するような。個別株の楽しみはここにある。
以前、ライザップという会社の株を買ったことがあった。派手なCMでパーソナルトレーニングジムを展開している企業である。創業者社長の記事がよかった。昔の彼女がダイエットをするときにサポートした経験から、ユーザーのコンプレックスを克服することに寄り添うというビジネスモデルを思いついた、という趣旨のことを述べており、筋トレ、英会話など、高額なマンツーマン指導を売りにしていた。筋トレも英会話も私の好きな分野だったので、社長の体験に裏打ちされた言葉にほれ込んで私は投資した。株価はうなぎのぼりで、軽自動車が買えそうなくらいの含み益となった。軽自動車でなくて、高級外車が買えるくらいまで保有したい、と欲がでた。PERが高くとも、人気株にはありがちなことだ。この社長が社員をけん引してくれるなら、もっと上がるのではないだろうか、と夢想した。
M&Aを繰り返したライザップは、不採算子会社を多く抱えた。しかし、M&Aは成長の時間の短縮だから、社長が組織改革をしてくれるのではないだろうか、と私は妄信した。経営陣に参画していたプロ経営者が苦言を呈し、ついにはやめてしまい、あれよあれよと株価は下がり、含み損が100万円を超えるにいたって、私は損切りをした。売却前に届いた株主優待のギフト券を使って、ライザップに買収されたアパレルのジーンズメイトで子供のズボンを買い、店員に「このジーンズは一本百万よ」と告げた。近所にあったジーンズメイトの店舗は閉店した。
一つの銘柄でこれほど損をした経験はなかったが、いい勉強になった。
- カリスマ社長により組織の実態が見えにくくなることがある。
- 過剰な株主優待には要注意。
- 急激な株価の上昇のとき、欲を出さずに利益確定
いまでもライザップのCMをみると、あの時の苦い記憶が頭をよぎる。しかし、恨んではいない。ぜひ、カリスマ社長のもとでも、全社員が有言実行をして、新しい価値を創造してほしいと思っている。青春時代に別れた恋人との高揚感の中の戯れの日々は、決して、捨て去りたい黒歴史ではなく、忘れられないときめきの想い出なのである。また、いつか、成熟した銘柄となって、私のポートフォリオに戻ってきてほしいのだが、どうやら、現在のライザップはまだまだ低迷中のようである。
【投資について語るときの愛と追憶】by 黒猫投資家
執筆:黒猫投資家(猫と人間のほんとうの幸せを探求する女性個人投資家)
猫と人間のほんとうの幸せを探求する女性個人投資家が紡ぐ不動産、株、投資信託物語
思い出のライザップ
【過去の記事】